加工と販売で肉を生かす 農家製の熟成生ハム
取材に行った火曜日は、生肉の発送日。前日に屠畜された肉が、戻ってくる日だ。販売担当の大美浪(おおみなみ)孝志さんは、農場主・源(はじめ)さんの義理の息子にあたる。朝から夕まで豚舎で過ごす義父を、孝志さんは「子豚を一目見て体調を言い当てる」と尊敬をこめて語る。
源さんが、豚へのこだわりを直接伝えたいと加工販売に踏み切ったのは10年前。それまで生かしきれなかったモモ肉はベーコン、ウデ肉はソーセージになり、会員制販売から広まった。「その頃、結着剤や増粘剤を使わず手づくりを貫いたから、お客様が続いているんですね」と孝志さんは言う。
~肉の生産者が自ら加工~

表面に塗って脂肪の酸化を防ぐパテは、でんぷんと塩を混ぜ合わせたもの。
最高の状態は、ふわりとチーズのような熟成香がして、スライスすると脂はクリーミー、透明感のある赤身はしっとり。舌にのせると長く広がる旨みと香りは、家族ぐるみの日々の手入れと時間が作り出す作品だ。
~売り方にもこだわり~
こうしてできた生ハムは、一本丸ごとで直接飲食店へ送られる。
「スライスしないのは、切りたてが一番おいしいから」という孝志さんは、4年前までは帯広で自動車関連の会社に勤めていたという。今は飲食店の引合いを増やすため、全国の催事で実演販売にも取り組んでいる。「右腕が筋肉痛で上がらなくなるんですよ」と笑うが、大きな骨付きハムをお客さんにアピールするのは誇らしい気持ちだ。
「ライバルが増えてもっと生ハムが身近になれば、うちの良さがもっと伝わる。ゆくゆくは、父の作るサラミのような非加熱製品に力を入れ、自分でもコッパ(肩ロースの生ハム)づくりに挑戦したい。」そう言って、孝志さんは農家の跡取りの表情になった。
(取材・文/フードライター 深江園子)